「カンシュコフ君、君は少々若者らしい活気に欠けるな」










 ズドゥラストブィーチェ、俺はカンシュコフ、看守をしている。ソビエト政府の実験地こと刑務所でアホみたいな更正プログラムを実行するという寒くて素敵なお仕事だ。2名ごとの監房ごとに完全隔離された囚人たちは俺たちヒラ看守(虫ケラ)、その他諸々の歯車(ゴミ虫、チンカス、生ゴミ、などなど)たちによって管理され、絶望的な極寒の中、便秘のクソのごとき監獄ライフを送りケツから排出される日を待つのだ。
 まあクソクソと言いつつも、そのクソのためだけに働く俺たちの意義って何? とか考えたらオシマイで、おまけに口に出そうものならあっという間にでっかい怪物に食われてクソの仲間入り。だからここで成功する秘訣っていうのはどれだけボンヤリして生きられるかってことだ。
 ここで一番憂鬱で最悪な仕事は、入獄者の身体検査だ。まず入獄者は身に着けている金属はピアスや指輪は勿論、靴の金具、ズボンのファスナーに至るまで余すことなく剥ぎ取られる。その後、布の服のみもしくは半裸になった新人のゴミクズどもは、流れ作業で素敵なブロマイドを撮影され、それが終わると服は全て意地悪い受付の年寄り看守に没収される。パンツもだ。無論、これらの品々が出獄時にそのまま返ってくることはまず無い。
 そして、これが本当に最悪なのだが、全裸になった囚人たちは俺たち看守により身体検査を受ける。薬物検査のための採尿、瞳孔の検査、タトゥーの有無、レントゲン検査、そして、最後に哀れなるゴミクズたちはその全身の穴という穴を俺たち看守にほじくり返されることとなる。
 ここでどんな厳ついアフトリチェートだろうが根を上げる。そりゃそうだ、俺だってケツの穴をほじくり上げられたら今まで積み上げてきたもの全部崩してでも泣き出すよ(俺が積み上げたのなんて履き潰した靴くらいだけど)。しかも、実際ここにヤクを入れるような奴がいるもんだから、かなり念入りに、そりゃもう、中指をギリギリまで突っ込んでグリグリと掻き回す。そりゃもう最低だよ。俺だって、出来ればゴリラみたいな野郎のケツなんて触りたくもないし、いくら手袋越しだからって粘膜独特の引っ付いてくるような感触はほんとに、本当に最悪だ(しかし時たま妙に抵抗の無い奴がいる。全く、怪物はえらい法律を作ってくれたものだ)。
 そういうわけで、薄給の虫ケラどもに尻の処女を奪われたゴミクズたちは半泣きになりながら縞々の囚人服に着替えて、監房に連れて行かれる。
 俺は、今夜の奴らの夢がどんなもんだろうかとぼんやり想像して、ああはなりたくねえな、と1人で呟く。

*

 俺は身の回りの大抵の人間のことは嫌いだけれど、その中でも特に嫌いな奴が2人いる。
 1人はロウドフ。汗臭い、熱血のクソチンカス野郎。
 もう1人は、ゼニロフ。冷徹守銭奴のクソ生ゴミ野郎だ。
 生ゴミ野郎のゼニロフの方は、どうも俺のことが嫌い、というか俺同様身の回りの人間は全員嫌いなクチらしいから、せいぜい朝に駐車場が隣になるとメンチを切り合うくらいで済む。
 だがチンカス・ロウドフの方はたちが悪くて、どうも俺の中の社会不適合者の臭いを敏感に嗅ぎ付けてそれを払拭しようと奴なりに努力しているつもりらしい。余計なお世話だし、こっちから言わせてみれば奴の制服に染み付いた汗の臭いほど不快なものも無い。昼休みごとに表に出てスポーツしないかと誘ってくる。死んでくれ、俺は屋内派なんだ、そう言ったらバドミントンでもどうだ、なんて言いやがって、てめえなんてゴリラどもの真っ黒病気チンコでカマ掘られちまえばいいんだ。
 そういうわけで今、インドア派で内弁慶、しつこく言われるとどうでも良くなってしまうタイプの俺は休憩室でテーブルテニスをしている。このピンポン玉が、地球ならいいのに。

inserted by FC2 system