わあなんて素敵な魚肉ソーセージ











「お前も馬鹿だな。本当に」
 俺が呟いた言葉を聞いて、異質に異質を重ねたような場違いな囚人541番は、やはりそのぼんやりおつむでは意味を理解できないらしく、きょとんと首を横に傾げた。今朝も思ったが、こいつは本当に頭が悪そうだ。俺はすっかりこいつの素直さに対して感じた爽快さを忘れ、ただただ嫌悪感ばかりを積み重ねていた。
 つまり、そう、541番とは、あのド変態のH・Hに尻を狙われていた、頭と運の悪そうな新入りの囚人だ。H・Hは俺やミーチャのような3級看守ではなく、その上の2級看守だから、そういうやましい行為を秘密裏に行うことはそれほど困難ではなかったろう。しかも、相手はいかにもな馬鹿と来ている。
 当然俺は、こいつはホモのH・Hに尻の(恐らく)処女を奪われるものだろうと思い、だからと言って救いの手などさらさら伸ばす気はなく、昼休憩のときH・Hの股間の臭いを想像することなくいかにキュウリのサンドイッチを完食するかについて考えていた。

 そうやって放置していた結果が、これだ。
 まず、H・Hは意中の相手の肛門を手に入れるために、うまく奴の身体検査の係に収まったらしい。なに、別に難しいことではないだろう。俺同様、多くの3級ヒラ看守は、毎日毎日男の肛門に指を突っ込むことに対して病的な嫌気を覚えているので、それから逃れられるためならば目の前の強姦変態男などいていないようなものに違いない。
 しかし、哀れなH・Hはその睾丸の中の数億体の分身を発射しないまま、身も心も萎みきることとなった。

「で、そのとき僕はこう言ったんです。――『ポークビッツみたいだ』って」
「ひゃはははは! そりゃ傑作だぜ嬢ちゃん! 野郎、絶対小さいと思ってたがやっぱりそうか。ああ、俺もそのときのH・Hの馬鹿面を拝んでみたかったもんだ……」
「おいミーチャ、お前の持ち場はもう300メートル手前だろ。なんでこんなところにいるんだ」
「お前だって同じだろ、イワン。皆、入所早々H・Hを泣かせたプレイガールの面を拝みたくて仕方ねえのさ」
「ねえミーチャ、そんなふうに言うの、よくないよ」
「アレクセイ、お前は純粋すぎるな。俺たちがすべきことは、屈折した性癖を持つ小男の不幸を笑い、今夜の酒の肴にするってことだけさ」
 よりによって、入所早々問題を起こした(それが能動的なものか受動的なものか、そんなことは関係ない)541番は、なんと“掃き溜め”、“穴倉”、“隔離監房”、南側の一番奥、あの凶悪な04番が住み着く魔窟に突っ込んでおけと、これまた問題を恐れた上司の鶴の一声が発せられたらしい。
 おかげで大迷惑だ。
「なあ、お前だって愉快だろ? カンシュコフ」
「お前たち3人がとっとと持ち場に戻ってくれれば、ちょっとはマシになるかもな」
 結局俺は、この穴倉のなけなしの利点『担当の囚人は3人』まで失ってしまったのだ。それどころか、暴力野郎の04番にバカガキの新入り、どう考えてもこいつら2人がうまくいくはずはないし、俺の始末書の枚数も減るはずがない。
 持ち場に帰っていく3人の同僚(とは名ばかりの殺してやるリスト上位ランク野郎たち)は、順々に俺の肩を叩いていった。
 畜生!

*

「ねえねえ、僕はプーチン。ここに来るまでは車の修理の仕事をしてたんだ。だから機械弄りはちょっと得意だよ。君も、何か直してほしいものがあったら僕のところに持ってきてよ。友達のよしみで、サービスしちゃうからさ。そうそう、ここって食事は何時と何時に出るのかな? 刑務所のごはんっておいしいのかなあ? 昔読んだ本だと、具の少ないスープが出るって。具が少ないのはちょっと嫌だけど、魚のスープなら僕はそれでも構わないなあ。ねえ、スープは魚かな? それともラード? 具にニンジンって入ってる? わあ、君って無口でクールな感じ。格好良いなあ。僕も、そんなふうにしてたら女の子にもてるかな? それに、その耳のピアスも、すっごいいけてる。どうやって持ち込んだの? 僕、おばあちゃんが昔くれたペンダントを没収されちゃったんだ。できたらあれだけでも返してほしいんだけどなあ……あのね、銀のメダルにキリスト様の絵が彫ってあって、細い銀色のチェーンが付いてるんだ。チェーンはちょっと短いけど、まあ、大丈夫さ。昔、僕が上手に賛美歌を歌ったからそのご褒美におばあちゃんがくれたんだ。あの時、すっごい嬉しかったなあ。それでね……」

 俺は2人の最低な囚人たちを見張るのに、ものの5分もするとすっかり嫌気が差してしまった。
 なにしろ、新入りの541番はまるで呼吸の代わりと言わんばかりに、監房に入ってから喋り通しだ。こいつはもしかすると喋っていないと死ぬのだろうか。もしそうならば今すぐ口をふさいでひと思いに殺してやりたい。そして、対する04番と言えば、何がなんでも口を開かない。むっつりと黙り込んでいる。こいつは喋ると死ぬのだろうか。喋りまくる541番は、達磨に向かって話しかけているのである。
 俺はあるひとつのものすごく可能性の高い確率に期待していた。

「でね、おばあちゃんったらおもしろいんだ。『あら、プーチン、今日が2回も来たわ!』なんて。日めくりのカレンダーをめくり忘れたんだ! 笑っちゃうよね。そのあと僕がこっそりめくっておいてあげたんだ。でも、そのとき間違えて2枚めくっちゃって……今度は『プーチン、明日がなくなっちゃったわ!』……仕方ないからおばあちゃんは次の日、まるまる寝て過ごしたんだ。その間の家事は全部僕がしたよ。ああ、おばあちゃんはここに面会に来てくれるかなあ。なにしろおばあちゃんってば、最近めっきり腰が悪くなって、立ち上がるのも億劫っていつもぼやいてるんだ。僕の家からここは遠いからね……来てくれないかも。ねえ、君には面会に来てくれる人がいる? ここってどのくらい面会は許されてるのかな? やっぱりガラスには丸く小さい穴がたくさん開いてるの? 僕って、あの模様を見るとなんだか目が回っちゃうんだ。おばあちゃんは急に目を回した僕のことを心配するかも……。でも目を瞑ってたらおばあちゃんの顔が見えないなあ。困ったぞ……」

 04番、お前のことは便所虫より大嫌いだが、今日だけはお前は俺の味方だろう? そのうっとおしいマシンガンおしゃべり野郎の口を拳で塞ぎたい気持ちでいっぱいだろう? 俺もそうだ。だがあいにく俺にそういうアクティブな行為は似合わないんだ。何よりその後のもろもろが面倒なんだ。
 だから04番、お前のその余りある凶暴な肉体をそのうっとおしいクソ野郎にぶっつけてやってくれよ。心配するな、俺、始末書には慣れてるからさ!

 ――しかし、どうやら04番は俺のことをよっぽど嫌っているらしい。もしくは、前世が敵対する中国武将同士だったとかそういうことだろう。でなければ有り得ない。こんな光景は有り得ない。俺は認めないし天にまします我らが神だって認めるはずはない。饒舌は罪である。うっとおしいのも罪であり、目障りな奴は死に処すべし処すべし処すべし。
 けれど04番は、音の暴力を吐き出す小さな緑のスピーカーをちらりと見ることもせず、お得意のスニーカー雑誌をぺろりと1ページめくった。なんてこった。奴の耳のノイズキャンセラー機能は化物か。それとも04番は姿が見えるだけで実は別の次元にいるのだろうか。だったら俺も連れて行ってくれないか、その夢の世界へ。
 ――いや違う。

「04番、俺、昨日、お前の母ちゃんのアナル舐め回してきたぜ。超臭かっ……」
 ほら、即効で縞々赤色の人体戦車がぶっ飛んでくるじゃないか。

 人生って、不幸と不平等に満ちてるんだ。ほんとだぜ。




















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無理矢理終わらせた感モリモリですいません。はい、飽きました。
タイトルも特に意味は無いし私は魚肉ソーセージよりチーカマ派です。
最後のカンシュコフの台詞は、母ちゃんにされたら嫌なことをテーマに
「お前の母ちゃんと」
→アナルファックしたぜ
→スカトロプレイしたぜ
→マンコ舐め回してきたぜ(“ドグサレ”って修飾しようと思ってやめました)
その他諸々あったのですが間を取って尻穴を舐めていただくことに。
どう考えても全部嫌ですが個人的に一番嫌なのは、
「お前の母ちゃんと昨日エステサロンで鉢合わせたぜ」ですね。
あ、挑発のための嘘ですよ。やおいサイトの沽券を保ちたいので一応説明。
あとがきで説明する作者はクs(ry

一人称って苦手です。さっさとストーリーを進めたい。



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